コラム

簡易TPとは?(役務提供取引)

 皆さんは、「簡易TP」という言葉を聞いたことがありますか。
 「簡易TP」とは、法令等に規定された用語ではありません。一般的には、移転価格事務運営要領(以下、「事務運営要領」といいます。)において、独立企業間価格の算定方法が確立されており、比較的容易に独立企業間価格を算定することが可能な取引をいいます。このため、「簡易TP」は税務署所管の中小法人に対しての調査も多数行われています。具体的には、次のような海外子会社(国外関連者)との取引が対象となります。
① 金銭貸借取引
② 役務提供取引
 ただし、①の金銭貸借取引については、令和4年6月に事務運営要領の金融取引部分が大幅に改正され、従来より確立していた算定方法が使えなくなりました。このため、特に中小法人の税務調査において新しい算定方法が確立するのは当分先のことになると考えられます。そこで、本稿では②の「役務提供取引」に絞って説明したいと思います。

【簡易TPの対象となる役務提供】
(1) 本来の業務に付随して行われた役務提供(事務運営要領3-11(2))
法人と海外子会社との間で行われた役務提供のうち、当該法人又は海外子会社の本来の業務に付随して行われたも のについては、当該役務提供に係る総原価の額(マークアップなし)を独立企業間価格とします。

 〔具体例〕 ・ 新工場立ち上げ時の指導や業務支援      ・ 社員教育・研修

      ・ 製造機械導入時の試運転立会や技術指導    ・ 販売支援や営業サポート

(2) 低付加価値な役務提供(事務運営要領3-11(3))
法人と海外子会社との間で行われた役務提供のうち、例えば「予算の作成または管理」「会計、税務または法務業務等の支援」などのように、支援的な性質のものであり低付加価値な役務提供と認められるものについては、(1)と同様に、当該役務提供に係る総原価の額(マークアップなし)を独立企業間価格とします。

【簡易な独立企業間価格の算定方法】(事務運営要領3-11(1))
この方法は、平成30年2月改正に伴い設けられました。具体的には、法人と海外子会社との間で行われた役務提供が低付加価値な役務提供である場合、一定の要件の下で、当該役務提供に係る総原価の額に5%を乗じた金額を加算(5%マークアップ)した金額を対価の額としている場合には、その対価の額を独立企業間価格として取り扱います。

 上記のような「本来の業務に付随した役務」「低付加価値な役務」を海外子会社に提供した場合に、日本の親会社が適正な対価を収受していなければ、たとえ日本の親会社が税務署所管の中小法人であっても移転価格税制(簡易TP)の対象となり、多額の追徴税額が発生することがあります。心当たりのある企業の方は、一度専門家にご相談されることをお勧めします。